ヒストリー・オブ・バイオレンス

東劇で鑑賞。以下、ネタバレ。


作家をキーワードに映画を語るまいと思うものの、この映画はやっぱりクローネンバーグらしさ(と僕が思っているもの)に軸足を置いて観ざるを得なかった。この映画単品で十分に面白く、過去の映画と比較しても面白く、単体ではちょっと好きになりきれなかった「スパイダー」までいい映画に思えてしまった。

普通に生活していた人が異質なものを得てしまったり、異質なものをもっていたことを知られてしまったりしたときに、その人とその周囲のかかわりがどう変わるのか、という考察は、これまでのクローネンバーグ映画と同じ種類のものだと思っている。お父さんの中に異形を見た家族が、少し変容しつつ、戸惑いながら、折り合いをつけていくようで、やっぱり戸惑いが大きく残っている、そんな状態を見ることができた。そのような心情は普段の生活でしばしば感じるものであり、一刀両断に気持ちがスパっと落ち着くことなどないことを感じてきた僕(というか多くの観客)にとって、好きか嫌いかはともかく「あー、あるある」な情景ではないかと思う。

お父さんは過去を悪く思っているわけでも、後悔しているわけでもなく、かといって現在悪い人間であるわけでもない。少なくとも映画の中で、彼の家族の視点から見る限りはそうだ。まぁ、過去を隠していたこと、または過去におこなった暴力について償っていないことは悪なのだから悪か。。。

息子はお父さんの暴力から何かを得た。子供が成長するということはそういうこと(善良な存在ではない親に影響されて変わること)なのかもしれない。それは観客がお父さんの暴力をみて痛快な気持ちになってしまうことと通じるのかもしれない。

エド・ハリスウィリアム・ハートがヘンテコなキャラクターを嬉々として演じているように見えた。