訃報

彼と会ったのは、渋谷にあるシネマライズで「ロッキー・ホラー・ショー」が上映されていた1988年の7月のことだ。彼も僕も週に1回はこの映画を見に出かけて、大声で叫んだり、歌ったり、踊ったり、周りのお客さんに怒られたり、笑われたりしていた。

家も近くて、映画がハネた後でよく一緒に車で帰った。ワイルドなライフスタイルながら、とても繊細な考え方の人で、あまりワイルドではなさそうに見えて、実は乱暴なライフスタイルの僕はよく彼を傷つけていた。実際、それで彼が傷ついていたという話は第三者から聞いたことがある。一応、謝ったよね。でもごめんね。

やがて飽きっぽい僕はこの映画にもやっぱり飽きて、あんまり見に行かなくなったのだけれど、彼はその後もロッキー・ホラーを楽しんでいたんじゃないかと思う。僕が思い出したように映画を見に行くと、最前列で相変わらず楽しそうに叫んだり、踊ったりしていた。一緒に遊ぼうと思ったりもしたけれど、僕にとってロッキー・ホラーは既に遊び尽くして飽きてしまったものだから、現役でエネルギッシュに楽しんでいる彼と並ぶのはおこがましくて、あまり近寄ることはできなかった。

その後、彼は東京から離れてしまって、僕はロッキー・ホラーに飽きた後で盛り上がった趣味にも飽きてしまって、でもたまにロッキー・ホラーの曲を聴くと「ああ、やっぱりいいな」と思うし、たまにロッキー・ホラーを見ると「Sweet Transvestiteまでのテンポはすんごいな」と感激しなおしたりする(それ以降はちょっとダレる)。

彼と僕が同じくらい長生きしたとして、再び会って、ゆっくり話すことがあったかどうかはわからない。考え方や生き方は必ずしも同じじゃなかったからね。僕は彼が死んだから、いまとてもセンチメンタルになっているだけなのかもしれない。死んだ人が生きている人の気持ちを覗けるなら、彼は僕の気持ちを看破して笑っているかもしれない。

メイクをして人懐っこく笑う彼の顔が浮かんだ。元気にしてますか?